今回は、先月発表されたアメリカからの新しい研究*1をご紹介したいと思います。
この研究の焦点は、私たちの脳の容積にあります。 研究者たちは、地域密着型の集団研究であるフレーミングハム心臓研究の参加者の、脳のMRI(磁気共鳴画像法)を使用しています。そもそもの研究は、1948年にマサチューセッツ州フレーミングハムで、心血管疾患やその他の疾患を調査するために開始されました。この研究は75年間続けられており、現在では2世、3世の世代が参加しています。 この脳の研究には、MRI時の平均年齢が57.7歳の3226人が参加しています。 この参加者のうち、1706人が女性(53%)、1520人(47%)が男性でした。そして、参加者が生まれた年代は、1930年代から1970年代までの範囲でした。因みにMRIの時点で、認知症、脳卒中、またはその他の神経障害(多発性硬化症など)を罹患していた方は、この研究には含まれていません。
さて、結果は?と言いますと、1970年代に生まれた参加者は、1930年代に生まれた参加者に比べて、脳の容積(頭蓋内容積)が6.6%、脳表面積(皮質表面積)が約15%も大きいことがわかりました。 また、1970年代に生まれた参加者は、1930年代に生まれた参加者と比較して、白質の体積が7.7%、皮質灰白質の体積が2.2%、海馬の体積が5.7%大きかったそうです。 もちろん、これは身長、性別、年齢による差を調整した後の結果です。 そうです!参加者の脳は、世代が若くなるにつれ大きくなっていたのです!
アメリカでは、高齢化に伴い、アルツハイマー病を持つ方の数は増加傾向にありますが、実際には、アルツハイマーに罹患している方の、総人口に対する割合は、減少しているという報告があります。そして、この研究の著者は、脳の発達と大きさの改善が、その理由の1つではないか、という仮説を立てています。
勿論、この研究は意義深いものですが、この研究の著者も認めているように、いくつかの制限があります。 この研究の参加者は、ほとんどが白人、また、健康で、高学歴でもあり、ほぼ半数(46%)が大学教育を受けていました。 したがって、より広範な米国の人口を代表しているかというと、そうでは無いことになります。アルツハイマー病やその他の認知症の研究において、 有色人種を対象にした研究は圧倒的に少ないのが現状です。この研究でも触れていますが、米国では有色人種の方々の社会的、経済的、および健康面での格差が大きく、 これらに伴うストレスや危険因子が、脳の健康と発達にどのような影響を与えるかは、具体的には分かっていません。言うまでも無く、この研究結果が、そのまま日本人に当てはまるかと言えば、やはり?マークですね。日本でも、日本人を対象としたこのような研究が報告されると、とても興味深いと思います。
*1 DeCarli C, Maillard P, Pase MP, et al. Trends in Intracranial and Cerebral Volumes of Framingham Heart Study Participants Born 1930 to 1970. JAMA Neurol. Published online March 25, 2024. doi:10.1001/jamaneurol.2024.0469
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