今回ご紹介するのは、運動、認知トレーニング、そしてビタミンDに関する、カナダからのこんな研究報告です*1。
MCI (軽度認知障害) を持つ60歳以上の175人 (平均年齢73.1歳、女性86人) が、この実験に参加しました。まず、この参加者を5つのグループに分け、20週間にわたる運動、認知トレーニング、ビタミン Dの効果を調べました。グループ1 は、有酸素・レジスタンス運動、認知トレーニング、ビタミン Dの摂取の3つを行いました。グループ2 は、有酸素・レジスタンス運動、認知トレーニング、プラセボ (偽物) のビタミンD摂取を行いました。グループ3は、有酸素・レジスタンス運動、見せかけの認知トレーニング、ビタミン Dの摂取を行いました。グループ4 は、有酸素・レジスタンス運動、見せかけの認知トレーニング、プラセボのビタミンD摂取を行いました。最後のグループ5は、コントロールグループで、バランス・トーニング運動、見せかけの認知トレーニング、プラセボのビタミンD摂取を行いました。
参加者は、実験開始前、6ヶ月後、そして12ヶ月後の3回にわたって認知機能の評価を受けました。そして、175人のうち133人 (76%) が最終的に12ヶ月後まで残ったということです。
参加者は、週に3回、合計で20週間、グループで、1回30分のタブレットでの認知トレーニング (本物のトレーニング、もしくは、見せかけの認知トレーニング)、そして60分間の運動 (有酸素・レジスタンス運動、もしくは、バランス・トーニング運動) を行いました。すべての参加者は本物のビタミンDかプラセボのビタミンDのどちらかを週に3回(10,000 IU)摂取しました。
本物の認知トレーニングは、記憶や注意に関する視覚運動のトレーニングで、行なっていく過程でレベルが上がっていくものだったそうです。見せかけの認知トレーニングというのは、観光に関する検索か、ビデオ鑑賞のどちらかだったそうです。有酸素・レジスタンス運動は、高齢者のために特別に作られたプログラムで、行う量や強度が徐々に上がっていきました。バランス・トーニング運動は、行う量や強度は変化しないトレーニングでした。そして、どちらのトレーニングも、ちゃんと指導者が付いて指導してくれるものでした。ちなみに、一般に、レジスタンス運動というのは、筋肉にレジスタンス、つまり、抵抗を加えて反復運動を行い、筋力や筋量を増やし、持久力を高めます。トーニング運動は、同様に筋肉に焦点を当てますが、筋肉を大きくするのではなく、筋肉を引き締め体脂肪を減らすことを目的とした運動です。
さて、結果ですが、コントロールであるグループ5に比べて、有酸素・レジスタンス運動を行ったどのグループも、6か月後の評価では、認知機能の得点が良くなったそうです。そしてさらに興味深いのは、有酸素・レジスタンス運動と認知トレーニングの両方を行ったグループ (グループ1とグループ2) は、他のグループに比べて、認知機能に臨床的に意義深い効果がありました。グループ1、2、3は、12ヶ月後の認知機能の再評価でも、実験開始前のレベルに戻ってしまう事はありませんでした。また、ビタミンDの摂取に関しては、認知面に全く効果が見られなかったということです。
つまり、この研究報告では、有酸素・レジスタンス運動と共に認知トレーニングを加えることが、MCIを持つ高齢者の認知機能向上に繋がるのではないかと、指摘しています。
今後もっとデータが必要だと思いますが、もし、この運動と認知トレーニングを組み合わせたプログラムがしっかりと確立されれば、MCIや初期のアルツハイマーと診断された高齢者の方々にとって、治療薬よりも安全で確実な方法となる可能性が高いのではないかと思います。
このブログでも紹介させて頂いているように、いろいろなアルツハイマー病の治療薬が開発されていますが、まだまだ問題 (価格や入手方法、副作用等) が立ちはだかっており、ひょっとするとこの研究報告のように、運動と認知トレーニングの両方を取り入れることで、認知症の予防と治療の両方に、新しい希望が生まれるかも知れませんね。
また、この研究でも取り上げられたビタミンDに関しては、次回のブログでお話したいと思います。
*1 Montero-Odasso M, Zou G, Speechley M, et al. Effects of Exercise Alone or Combined With Cognitive Training and Vitamin D Supplementation to Improve Cognition in Adults With Mild Cognitive Impairment: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open.2023;6(7):e2324465. doi:10.1001/jamanetworkopen.2023.24465
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